大河小ネタ
ゆっくりとした動きで眼帯を外される。政宗は気取られないよう、けれど抑えようもなく、わずかに身を固くした。
長く人前にさらしたことのなかった右目に、幸村の視線が注がれる。
伏せていた左目を跳ね上げて、ごく間近にいる幸村を見捉える。
「感想でも言ってみるか?」
政宗は無理にも唇の端を上げて、挑発的な笑みを浮かべてみせた。
眼帯の紐を丸めて褥の傍らに置いた幸村は、かけられた声に、え、と小さく声をあげる。
「感想……でござるか?」
「潰れた目だぜ? 驚いたとか醜いとか、何かあるだろ。正直に言ってみな」
促すが、幸村は思いもかけない言葉を向けられたという様子で、困惑した表情を見せている。それは政宗にとってもまた思いもかけないもので、露骨に驚かなくとも例えば痛ましそうな表情や、気遣う様子、そういったものを向けられるのが常だったというのに、幸村の反応はそのどれにも当て嵌まらない。
「そうでござるな。……強いて言えば、見えぬのだな、と」
たっぷり悩んだ後で幸村が口に出したのはそんな言葉で。
「そのままじゃねえか」
「そのままでござる。他に、何か言えと言われても思い浮かばぬのだが」
心底弱りきったように政宗の様子を伺う幸村に、政宗は表情を崩して吹き出した。その笑顔のこれまでにない無防備さに、幸村が胸を突かれたように息を飲んで押し黙る。
おかしな男だ。
思いながら、政宗はこみ上げるままに喉で笑う。
驚きもせず、気味悪がりもせず、慰めの言葉をかけるでもなくただ見えぬのだなと、その事実だけを平然と受け止めた。
政宗はしばらくのあいだ笑い続け、そうして幸村の首に腕を伸ばすと、その体を引き寄せて囁いた。
「妙なこと聞いて悪かった。……しようぜ、真田幸村」
途端に顔を赤くした幸村は一度口元を引き結び、近づけられた政宗の顔へと躊躇いがちに唇を寄せた。そうしながら頭の隅、ひとつもしやと思い至ることがあったが、唇の柔らかさや触れた肌の感触に狼狽え、口内の熱さに思考は溶けて、そのことは再び頭の片隅へと追いやられた。
隻眼は、山本勘助で見慣れていた。
2007.01.29
むかーしブログに書いたやつをサルベージ。大河「風林火山」を見て、2にも山本勘助がいて、それでこう、勢いで。こんなオチでほんとすみません。