夢も現も

 真夜中に目が覚めた。ごく近くにある政宗の寝顔を、寝付くまでと思って眺めていたら余計に眠れなくなった。障子に濾過された青白い月のひかりを頼りに、いつにも増して白く見える肌や、精悍な頬の線や、それを縁取る産毛や、薄い唇や、左の瞼の長い睫毛や右の瞼の病の痕。そんなものを飽きもせずに眺めていたら、視線が煩かったのか政宗の瞼がひくりとふるえて開かれた。焦点の合わない茫とした瞳が幸村を見て、此は夢か現かと低い囁きが問う。まだ寝惚けている。問いながらも瞼はゆっくりと落ちて、眠ったかと思えば忙しく瞬いて開かれる。その様子が可愛らしくて自然に頬を緩ませながら、白い頬にかかる髪を手で梳いて後ろへ流し、現で御座ると答えれば証拠はと重ねて問われた。某が居るのが現で御座る。考えた末にそう言うと、目を閉じた政宗がくすりと笑い、間延びした声に莫迦と罵られた。柔らかな響きのそれに形ばかりの非難を返せば、莫迦は莫迦だと呆れ混じりに呟かれる。どっちにも居るくせに、証拠にも何にもなりゃしねえ。
 言葉が心に落ちるなり、ふいに湧いた衝動に、抗いきれずに腕を伸ばしてその頭をかき抱いた。

2005.12.06