縁側で柿を剥く
唐突に頭に手が置かれて、佐助は剥いていた柿を取り落としそうになった。
「ちょっ……何、いきなり」
縁側だから、落ちれば柿は土まみれになる。水場まで洗いに行くのは面倒だ。よくぞ堪えたさすが俺様と自賛しながら、佐助は横目で幸村へと非難の視線を向ける。
「ん?」
佐助の隣に座って、柿が剥けるのをおあずけされた犬のように眺めていたはずの幸村の関心は、今は柿よりも佐助(の頭)に向かっているようだった。佐助の頭と顔とを見比べて、逆に不思議そうな顔をされてしまう。
「そんな気がしたんだが、違ったか?」
違ったかと問われたところで、“そんな”の部分の説明が全くされていない。
(そんなってどんなだよ)
剥かれた柿の、艶やかな橙の皮が、包丁の刃先でぷつりと途切れて籠の中に落ちた。
(口で説明してみろよ。できねえんだろ。わかってない癖に変な勘で人の頭撫でるとか俺はあんたのそういうとこがほんとに)
「……何言ってんのかわかんないけど」
ああ、旦那が妙なことするからだ。最初から最後まで繋げて剥くのが好きなのに。その間は頭が空っぽになるから好きなのに。嫌なこと、全部頭の中から抜けるから好きなのに。
幸村は行儀悪く、縁側から垂らした足を前後に揺らしながら佐助の髪を撫でている。
佐助は再び果肉と皮の間に包丁を入れて、左手で柿を回しながら皮を剥く。
撫でて欲しいなどと考えたわけではない。けれど少し、ほんの少しだけ、どこか安堵を誘うその感触が離し難く思えて。
「あと、十数えたら離してよね」
十数える間だけそうしていてくれと、遠回しにねだった。
2005.12.02