恣
組み敷いた体。白い喉が、
反って掠れた声を上げた。
明確な意味を持たず高く塗れたそれは
紛れもない嬌声だ。
体の中央を貫くように得体の知れない痛みが走る。
疼きのようでもあり、痺れのようでもあるそれに、達しそうになるのを
寸でのところで堪え、幸村は詰めた息を吐いて政宗を見つめた。
抑えきれず声をあげる自分を恥じるように政宗は
忌々しげに眉を寄せている。
かたく閉じた目元は朱に染まっていて、そういった態度が情欲を
煽るばかりだと知らないわけでもないだろうに、頑なに
溺れるのを拒否している。半ば強姦のように組み敷き貫いた幸村を拒んでいる。
委細構わず腰を突き動かして弱い部分を攻めれば、
途切れ途切れに喘ぎが漏れた。耐えられないとでも言うように口を
塞いだ手を両手で引き剥がして畳に縫いつけ、
右目の上に唇を寄せ舌で舐め上げれば途端に
政宗の全身がかたく強張った。逃れようと捩る体を
追いかけてなおもそこへと舌を這わせる。
「…っざけんな……!」
低く小さく、悲鳴にも似た響きで政宗が叫んだ。腹の底から絞り出された声。
それに満足して幸村は笑みを浮かべる。
政宗が嫌がるのを知っている。だから右目の傷痕に触れる。そうして
胸に満ちるのは少しの征服感だ。
政宗の本意でない形で体を繋げた。ろくに慣らしもせず強引に貫いた。
それでも幸村のものを難なく受け入れるようになった体、
前に触れられずとも感じるようになった体を
思い知らせて矜持を叩き折りたいのだ。
揺さぶられて、
塞ぐものを無くした薄い唇はだらしなく開かれたまま
絶え間なく熱い息を吐き出し、時折
反らされた喉が上下して溜まった唾液を嚥下する。
思い出したように歯を食いしばり気を散らしたいのか
頭を横に振る動きで髪が乾いた音で布団を打つ。
拒もうとする意志を裏切って下腹で反り返る象徴は先走りの液を零し
刺激を与えられて収縮する内壁は幸村を締め付ける。
体の芯を揺さぶるような声と共に、政宗の背が跳ね
白い腹に精を吐き出した。温かな肉壁につつまれて
幸村も幾度目かに精を放ち背筋をふるわせる。
吐精の快感と連れ立ち襲い来るのは虚脱感。
まだ足りない。
ほしいまま抱いても足りない。
どれだけ抱いても手に入らない。
全身に口づけて、幾度も体を繋げて、既に
政宗の体に知らないところなどないというほど抱き合って、それでも
自分をこんなにも飢えさせる。
楔を抜いて体重を預け、しがみつく強さで抱きしめて、
肩口に埋めた唇で
嗚咽にも似た吐息に乗せて好きだと訴えた。
「馬鹿か、お前は」
「好きだ」
「わかってんのか。泣きたいのはこっちだ」
「政宗殿が好きだ。好きだ。……好きだ」
骨張った手に髪の生え際を力任せに掴まれて
上向かされ、きつい色を湛えた隻眼と出会う。
拍子に、塗れた感触が一筋頬を伝った。
たとえば
合戦の場、衆目の中で、
鎧を剥いで犯せば満たされるだろうか。
確かに腕の中にいるのに、なお恋焦がれるのは
弓のような月を掲げた蒼い衣の武人の姿だ。
抑えようもなく腹の奥から湧き上がる、泣けるほどに
愛しいと思う。それなのに。
「好きだ……政宗殿が、本当に」
顔を歪めてだだをこねる童のように繰り返せば、呆れた声が
知ってるさと呟いた。
知っているのか。ならば答えを持っているのか。
こんなに好きなのになぜ戦いたいのか。
こんなに好きなのに、なぜ殺したいのだろう。
2005.11.03